1 暖をとるため?
「それで、あなた、どうして火を付けたの?」
泥酔した男性が、居酒屋のシャッター前に火のついた段ボールを置いたという事案だった。逮捕時の罪名は現住建造物放火罪。被告人の男性(以下、男性という。)は段ボールを燃やした事実を認めていた。
最初の接見で、私は、誰もが尋ねるであろう、当然の問いを男性に投げかけた。男性は、寒かったので暖をとろうとした等と答えた。
事件発生は2006年11月22日深夜。
男性は生活保護を受給しており、帰る家がないわけではない。何故、居酒屋の前で「暖をとる」必要があるのか。
私は納得できないまま、接見室を出た。
同月、検察官は「入店を断られた腹いせに、店に火をつけて店主を脅迫しようとした」として、男性を「脅迫罪」で起訴した。被疑者弁護に続いて私が被告人国選弁護人を担当。初公判で、男性は「段ボールに火をつけたことは事実だが、居酒屋の店主を脅迫する意図はなかった」として無罪を主張した。この段階で、まさか、この事案が私にとって第2号の「無罪事案」になるとは思ってもいなかった。
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