映画評論2 ビルマVJ 消された革命 【弾圧と闘う人々の物語】

1 抑圧されたビルマの人々

劇場公開が少ないのが残念ですが、これはすごい映画です。

 軍事独裁政権の続くビルマ。民主化の指導者アウンサン・スーチーさんの軟禁が続く中、言論、集会の自由は著しく制限され、市民は政府に対する批判を禁止され、国内の情報を海外に持ち出すこともできません。ところが、2007年9月に起こった大規模な民主化デモは、拷問や投獄のリスクを顧みず命がけで情報を発信し続ける「ビルマ民主化の声」に所属するVJ(ビデオ・ジャーナリスト)たちの手によって、世界がその実態を知ることができたのです。この映画は、そんなVJたちの命がけの取材と、2007年9年のデモの顛末で構成されています。

 映画は1988年に起こった民主化運動弾圧の記憶から始まります。ビルマでは1962年のクーデターで軍事独裁国家が成立しました。1988 年、学生を中心に民主化運動が起こりますが、軍部により鎮圧され、国軍による再度のクーデターによりソウ・マウン議長を首班とする軍事政権(国家法秩序回復評議会、SLORC。のちのSPDC。現議長はタン・シュエ国家平和発展評議会議長)が誕生します。民主化運動は徹底的に弾圧され、約3千人が殺されましたといわれます。
 民主化のリーダー・アウンサンスーチー氏は、翌1990年に予定された選挙への参加を目指し、国民民主連盟(NLD)の結党に参加しますが、1989年 7月に自宅軟禁されます。1990年5月27日の総選挙でアウンサンスーチーの率いるNLDは大勝しますが、軍政側は権力の移譲を拒否、現在までスーチー氏は釈放と軟禁を繰り返し(過去20年のうち14年間は拘束されています)、同国は軍事独裁政権が支配しているのです。

2 立ち上がった人々

 2007年のデモの直接のきっかけは、同年8月15日、軍事政権が最大500%の燃料価格の大幅な値上げを決めたことでした。ヤンゴンの町では学生や活動家による小規模な抗議活動が始まりました。抗議活動は次々に弾圧されますが、民衆の怒りは徐々に高まっていきます。
抗議活動を秘密で取材するVJたちの活動がすごい。彼らはカバンに小さなハンディカムを忍ばせて、見つからないよう、密かに撮影する姿は実にリアルです。カメラが見つかればすぐ没収で逮捕。そんなひどい話があるでしょうか。このひどいやり方から、独裁的な権力が報道の自由というものをいかにおそれているかを、逆に知ることができます。
 場面はやがて僧侶たちの決起に移ります。仏教国ビルマで、出家僧は国民の尊敬の的です。その僧侶が生活苦にあえぐ国民の不満を代弁するべく立ち上がったのです。僧侶による行進の場面は実に感動的。僧侶が「和解を、和解を」と叫びながら行進すると、市民らは「僧侶が来た」と勇気づけられ、今まで押さえれられていた自由を初めて行使し、デモにたちあがるのです。沿道はデモを支持する市民で埋まり、まさに“革命”のような状況になりました。それでも、デモは全く平和的に行われ、政府が暴力で弾圧する理由など全くない行為でした。

 僧侶たちの行進はやがてアウンサンスーチー氏の自宅前に到着します。海外で情報を受け取っている主人公は、スーチー氏の姿に涙を流します。全てのビルマ国民が同じ気持ちだったのでしょう。
“革命”の様子はVJらの活躍で海外のニュースに大きく紹介されました。軍事政権は驚いたでしょう。VJらの流す真実のニュースは軍事政権の嘘を暴き、ビルマ国民の真の願いを世界に訴えたのでした。

 ところが、“革命”はそこまででした。軍事政権はついに弾圧に乗り出しました。僧侶は兵隊に僧衣をはぎ取られ、寺院は破壊されます。さらに兵隊はデモ隊に向けて発砲、その過程で数十人の一般市民ととともに、日本人ジャーナリスト長井健司さんが殺されます。
 VJのカメラは長井さんの殺害の瞬間を鮮明にとらえています。長井さんを殺害したのは明らかにビルマ軍でした。彼らがおそれたのは、何より長井さんが持っていた「カメラ」だったのでしょう。ジャーナリストによる報道の力こそが軍事政権による犯罪を世界に告発したのでした(長井さんが撮影したビデオテープは未だ軍事政府から日本に返還がなされていないとのことです)。

 “革命”は一月半ほどで鎮圧され、僧院への襲撃と一般市民のデモ参加者の大量拘束によりその幕を閉じます。この弾圧の結果、弾圧前は一千人だった政治囚は、弾圧後に2100人にまで膨れ上がったとのことです。映画はVJらの拘束と虐殺された僧侶らの映像、そしてその後ビルマを襲ったハリケーンの映像で終わります。私はあまりに壮絶な映像にしばし席を立つことができませんした。

3 人権侵害に対する私たちの責任

 日本は毎年ビルマ(軍事政権による名称は「ミャンマー」)に巨額のODAを支払う最大級の援助国でした。ところが、日本政府はビルマの軍事政権に対してきちんと抗議したり、弾圧の首謀者に対して制裁を加えたりしていません。この、あまりに明白で重大な人権侵害に対して、なぜきちんとした抗議声明の一つもあげないのでしょう。

 ビルマで起こっている人権侵害は、あまりに身近な、そしてあまりに重大で大規模な、現在進行形の人権侵害です。私たち日本人も、これに抗議の声を上げ、また、抗議の声を上げるよう、日本政府に要求していきたいものです。

(「ビルマVJ消された革命」 アンダース・オステルガイド監督 2008年デンマーク)